2015.12.28 まちとまなざし 
まちとまなざし

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「まちとまなざし」と題したこの連載も、今回が最終回である。そこで、まずはこれまでのおさらいからはじめたい。

景観は、景色・背景といった客観側を意味する「景」と、観賞・観察といった主観側を意味する「観」が合体した言葉だという。このように景観は、客観と主観の、まちとまなざしの交歓のうちに息づくものだ。

だとすると、専門的見地から普遍的・客観的に「良い景観」があるとする考えはちょっとおかしい(「そこにある景色の全部」)。みんなにとって「良い景観」を作っていこうとする明るさの中で、社会的排除が正当化されてしまうことへの懸念もある(「よく晴れた日だった。遠くまで見える。」)。

また公的に「良い景観」とされた景色も、時代や社会の変化を伴う人々のまなざしのなかで異なる相貌を帯びるはずで、むしろそこが景観の面白いところだろう(「A Day In The Park」)。同様に、ある人にとってかけがえなき景観も、その人が社会的に包摂されれば、かつての輝きを失うだろう。だからといって、無意味だというのではない、むしろ逆である(「すきまから、そのすきまから」)。

このように、景観を巡って、客観側と主観側のそれぞれから、考えてきた。そこで改めて、景観が、自分以外の他の誰かにとって、どんな意味を持ちうるのかについて、考えてみたい。そこでまず、景観賞からはじめよう。

特定の景色に賞を授与し、公的な権威の下で承認する。そうやって、本来個人的なまなざしと景色の交歓のうちに息づく景観が、「みんなにとって価値ある景観」としてオーソライズされる。景観賞とは、こうした性格のものであろう。

たしかにこうした賞は、共同体やコミュニティを形成・維持する上で必要なのだろう。個別ばらばらの私たちが、お互いにつながっていることをイメージする上で、「みんなにとって価値あるもの」という紐帯は、歴史的にも求められてきた。だが、どうにも居心地が悪い。

景観は、「観」というまなざしを定義に抱え込んでいる点で、その本質において個人的なものである。景観のなかに息づく、まなざしと景色の豊かな交歓は、それが魅力的であればあるほど、他の誰かにとっても価値あるものと承認され、やがて公的に賞を授与されることにもなるだろう。そうやって一般化されるプロセスでは、個人のまなざしがみんなのまなざしになるよう求められる。だが個人とみんなは同一ではない。そこで、まなざしの実質を欠いたまま、ただ景色のみが価値であるかのような見かけで流通することになる。そこで景観はその本来的なあり方を失う。

その意味で、景観賞は「公の認めた良い景色」ではあるだろうが、景観が成り立つことを保証するものではない。素敵な景観は、オーソライズされた景色を一方的に受け取るまなざし(安心・安全・うっとり)ではなく、むしろ、ある時ある状況のなかで奇跡のようにきらめく景色と出会ってしまう際のまなざし(覚醒・戦慄・忘れられない)において成り立つと思われるからだ。

もっとも、だからといって、景観賞を敵視し、公的な承認を良しとせず、「個人的な景観」を神聖視したいのではない。それは公的な権威とは別の権威を打ち立てるにすぎない。「みんなにとって」価値あることや公的な承認を目指すのは、至極真っ当なことだろう。問題は、景観をどこかに固定させる考え方にある。その考え方と、景観の本質が矛盾しているのだ。

それでは、次のように考えられないだろうか。

景観は、景色とまなざしの交歓のなかで成立するが、実際には、自分とは異なる誰かのまなざし、自分たちとは異なる人々のまなざしが、自分の/自分たちの景観に、歴史的にも社会的にも重ねられている。そうやって何層にも積み重ねられたまなざしを受けて、景色の相貌は絶えず組み替えられていて、そこで景観は、あたかも目紛しく変化する万華鏡のような紋様として映し出されている。

景観における「みんな」というあり方は、そんなまなざしたちと景色の織りなすダイナミックな営みのことなのではないかと思う。だとすれば、大切なのは、どの「景色」が、公式に認めるべき景観賞に値するかという点にはないはずだ。

むしろ大切なのは、景色とまなざしたちの織りなす営みを見通そうとする試みだろう。それらの営みが映し出す「みんなにとっての景観」は目眩く速さできらめき、止むことを知らない。その瞬きの連鎖のうちに、たまさか星座のような像が結ばれるとしたら、そのイメージこそ、特権的な紐帯に媒介されるつながり方をやめた、これからの人と人とのつながり方なのではないか。そのように思いたい。




山内泰


NPO法人ドネルモの代表です。人と社会のあいだに、新しい関係を見つけ出すことで、「あったらいいな」をかたちにする活動をしています。
http://donnerlemot.com/