2015.5.18 家族の風景 02
景観と風景の違い

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ぼくは大学で「景観工学」と出会い、その後の生き方・はたらき方が変わっていくわけですが、それを決定づけたひとつは「景観」と「風景」の違いを思索できたことです。

「景観」と「風景」は同様なものと扱われることが少なくないですが、一般的に解釈されている意味や起源をひも解くと、その違いが見えてきます。

さて、そのあたりのお話をしようと思っていた矢先、ちょうど具合がよい言葉に出会いました。

先日、5月6日に「第9回 福岡県景観大会」なるものが開催されたようです。参加していないので、内容は詳しく知らないのですが、その時に掲げられていたコピーが『風景にきづく 景観をきずく』というものでした。

コピーとしての善し悪しは抜きにして… 風景はきづく(=気付く)ものであり、景観はきずく(=築く)ものであると主張していますね。「風景」と「景観」の一般的な認識が端的に表現されています。

ある対象を眺めた時の、素敵だなぁとか美しいなぁとかそういった主観的な感情を扱う場合、一般的には「風景」がよく使われます。でもその感情を踏まえて何かしらを物理的につくる(=築く)場合、その対象は「景観」と扱われがち、ということです。

無論、ハッキリ分けられるものではありません。しかし「景観」の場合は物理的な性格が強くなり、「風景」になると主観性が強い概念として一般的に捉えられています。

以上のように捉えると、ぼくが学んだ「景観工学」が「風景工学」でない理由も見えてきます。
つまり、「景観工学」は、物理的な土木構造物を対象とするとともに、それをつくる(=築く)ことを主眼とした学問なのです(※1)。

「景観=landscape」を対象とする学術分野は、土木だけではありません。たとえば建築でも扱うし、ぼくが大学院で学ぶことになる「ランドスケープデザイン(造園分野)」もそうです。いずれも「つくる」ことを主要な目的にしていますので、「風景」ではなく「景観」がふさわしくなります。

それでは、そもそも「景観」が学術的に使われ始めたのはいつからなのでしょう?

学術用語としての「景観」の変遷を研究した渡部(※2)は、植物学者の三好学が1902年にはじめて植生に対して「景観」を使用したと指摘します。その後、一定の広がりをもつ自然地全体を示す用語として用いられるようになり、さらに様々な分野が「景観」を使用し、都市にも適用されていったそうです。

つまり「景観」は、一定の広がりのある土地=「環境」を、客観的に捉え分析の対象としようとして生じた近代的な概念なのです。

さきほど、「風景」が「景観」よりも主観性の強い概念であることを説明しました。しかし、「景観」が「環境」を知覚した結果である以上、主観性を排除することはできません。

人や状況によって感じ方や意味が変わるダイナミックな現象となり、全ての価値を客観的に(生態学的に)記述できないのです。かといって、主観性やダイナミックさを担保しようとすると、評価や分析が難しくなります。

また、一定の広がりを前提とした「景観」は、自然の要素や複数の対象を含むが故に「わたし」ひとりの所有物ではありません。(冒頭の写真のように)

「わたし」以外の誰かとともに、その価値を享受しなくてはならないので、複数の人たちが共通して持ち合わせる性質(生態学的特徴や、一定の領域で共有された文化的な特徴など)を、その評価の基本とします。

「景観」は、全てを客観的に記述できないにも関わらず、多くの人たちが時代を超えて価値を享受するために、客観性を求められる現実があるのです。

余談ですが、このような状態を、ぼくは<景観の葛藤>と呼んでいます。人間の暮らしと共にある「景観」を追究する際には、絶えずその葛藤が付きまといます。

 

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周囲を写した写真が「景観写真」ではなく「風景写真」と呼ばれがちなのは、カメラを介した時点で、撮り手の主観が強くなるから。さらにこの写真のように印象的に(主観に沿って)切り取ると「風景っぽく」なっていきます。

 

 

まとめます。

土地に立ち現れた物的対象(環境)の知覚した結果が「景観」。さらに「景観」は、客観的な評価が要求される学術用語として用いられてきた側面があり、複数の対象を含む一定の広がりを前提としてきた。その「景観」に対して、より主観的な価値に重きを置く場合、わたしたちは「風景」と呼び習わしている。

となります。

さて、このような「景観」と「風景」の違いをもとに、学生時代のぼくはどのような問題意識を抱いていったのか。次回は、さらに「風景」の概念を深めつつ、そのあたりについて、お話していきます。
※1「景観工学」の理論は、高速道路をつくる(=築く)際に生じる「道路景観」から始まり、その他の対象へと広がっていきました。
※2 渡部章郎「専門分野別による景観概念の変遷に関する研究 -特に植物学系分野、文学系分野に関して-」四天王寺大学紀要 第47号,2009年3月




田北雅裕


九州大学の教員です。
そのほかに、SOS子どもの村JAPAN 広報アドバイザー、ALBUS ディレクター、糸島市 市政アドバイザーなどもしています。http://trivia.gr.jp