2015.4.28 家族の風景 01
景観との出会い

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去年の12月、SOS子どもの村JAPANから広報誌「かぞく」を発行しました。

子どもの村は、家族と暮らせない子どもたちや、家族と暮らしながらも孤立している子どもたちを支援していく、いわゆる児童福祉分野のNPOです。ぼくは、その冊子の編集長をしています。

また、昨冬から「みんなの力で児童相談所のホームページをデザインしたい!」というプロジェクトを進めています。デザインが行き届きにくい児童相談所のホームページについて、市民から寄付を集め、それを基にデザインをし、そのデザインしたものを自治体に寄付するというプロジェクトです。(5月完成予定)

以上のように最近は、デザインを手がかりに子どもや家族が抱えている問題を解決していくための活動に携わることが多いです。大学では教育学部で教えています。

でも実は、ぼくは元々「景観」を学び、研究していました。正確には、土木の景観工学という分野になります。
学生にこの事実を話すと驚かれます。講義の中では土木や景観について、話をしないからです。

しかしぼくの中では、「景観」の延長上に、いまの活動があります。

「景観」を学んでいたぼくが、なぜいまは「家族」に目を向け、活動しているのか。今回のコラムでは、そのあたりについて5~6回に分けて書いていこうと思います。

 

 

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ぼくが生まれたのは熊本市。近所には「白川」という川が流れていました。中高生時代、そして予備校に通っていた頃、そこにかかっていた「子飼橋」や「銀座橋」の下によくたまっていました。

「川行こうぜ」と友達に声をかけ、近くの自動販売機でいろんなもの?を買って、橋の下で他愛のない話をしてぐだぐだ過ごしたり、あるいは、辛いことがあった時にひとりで過ごしたり。

その「橋の下」はいつしか、ぼくにとって、かけがえのない場所に変わっていき、「こんな場所をデザインしたい」と思うようになりました。誰かにとってかけがえのない大切な場所をデザインしていきたいと願ったぼくは、大学の進学先を選んでいきます。

結果的には、浪人しても第一志望の大学に受からず(その時も橋の下でひとり過ごしました)「土木」を学べる大学に進学します。進学の際に頼りにしたのは「橋の下だし、川だし、土木だよ」とか、「土木は建築も含んでるんで、デザインも勉強できるよ」とか… そんな周囲のアドバイスによるものでした。

でも入学してみると、実際は違いました。大学ではデザインの授業がなかったのです。

かといって、退学して受験勉強をしなおす気概はありません。ぼくは独学をしようと、友人のお父さんにお古のドラフター(図面を描く器具)を譲ってもらい、好きな建築やプロダクトの図面をトレースしたり、スケッチをしたり…そんな日々を過ごしました。

その後「これからはCADの時代!」という(やはり周囲の)助言に従い、借金をして、CADのスクールに通ってみました。そこに行けば、最先端の技術があり、何より、共にデザインを語ることができる仲間がいると思ったのです。

でもそこで出会ったのはパートのためにCADを覚えようと集まった奥様たちで…。
橋の下のような場所をデザインするためにはどうしたらよいのか分からず、相談しても、ずれた答えしか返ってこなかったので、もう諦めに近い冷めた心持ちで、学生生活を過ごしていきます。

今だから笑って言えますが、入試の面接の際「新しい『建築の先生』が入ったからデザインが勉強できるよ」と言われました。その一言を、ぼくは結構頼りにしていました。

その「建築の先生」こそが、実は、先のシンポジウムで講演をされた仲間浩一先生だったのです。

2年生の時だったとおもいます。先生の講義に少なからず期待していたぼくは、受講してはじめて、先生の専門が建築じゃないことを知ったのです。その時のショックたるや…。

しかし、先生の講義は、徐々にそのショックを忘れさせてくれました。今までひとりで暗い中をもがいていたけれど、その先に進むべき道がじわじわと広がっていくような、そんな授業内容でした。

先生が教えてくださったこと。それが「景観」でした。

希望していた大学に受からず、勉強したいことが勉強できず、借金をしても報われず… そんな数々の不運があったからこそ仲間先生と、そして「景観」と出会えたとも言えます。

先生が講義で話される「景観」を深めていくことが、ぼくのやりたいことにつながる気がしました。その時から、ぼくの周囲の世界が、少しずつ少しずつ、ひろがっていったのです。

つづく。




田北雅裕


九州大学の教員です。
そのほかに、SOS子どもの村JAPAN 広報アドバイザー、ALBUS ディレクター、糸島市 市政アドバイザーなどもしています。http://trivia.gr.jp