2015.9.21 くらしのにおい 
「手のあな、人のあな」

今回の「くらしのにおい」のテーマは道路面に点在する鋳鉄製の蓋「マンホール・ハンドホール」に目を向けてみたい。

この鉄の蓋は、バイク乗りである僕にとって、雨天時は爆発率5%の地雷的な恐怖のスリップ要素で、出来るだけ避けたい代物である。

都市景観的な視点で言うとルートとルールがある機能的な地下インフラの表示板であり、地下空間への扉とも言える。

 

旅行中の楽しみとして、「マンホール」のデザインを写真で撮ってた頃があったのだが、恥ずかしい話ローマで良く見かける「SPQR」という4文字に電気水道を一手に引き受けるでっかいインフラ会社があると信じていた。

(正解は「Senatus Populusque Romanus」の略字で「元老院とローマの市民」という意味らしい)

紀元前600年くらいに古代ローマに下水道が整備されたのが都市の発展へと繋がっていったと考えると、都市の発展とマンホール蓋(下水道インフラ)には都市景観を語る上での切り離す事が出来ない、つながりがあると言える。

雑学ではあるが、ローマの観光地である「真実の口」もトルコ大理石のでっかいマンホールの蓋である。(直径1.75m 重さ1.2t)

 

タイトルにもある「手のあな、人のあな」だが、そもそもマンホールとハンドホールの違いは何だろうか?

福岡市のマンホール事情は、福岡市の上下水道蓋・消防用水蓋・九電やNTTの地下埋設蓋など多種にわたる。

緑色は西部ガス、オレンジ色は上水や消火栓など、色分けされているのも特徴的だ。特に消火栓は火災時に見つけやすいような工夫がある。

 

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古い防火水槽の蓋[左]と新しい消火栓[右] ともに消防車のデザイン

 

 

当然、その蓋の大きさは様々で上下水道の止水栓やソフト弁は直径200ミリ以下また、電線共同溝の大きい蓋は1500ミリまである。

人が中に入って点検出来るサイズまで(スーパーマリオの土管サイズ約600ミリ)をマンホール、それ以下の小さくて人が入れない蓋をハンドホールと呼ぶのだと、電気ケーブルの地下埋設管を入れるハンドホールの大きい蓋を見るまで30年間くらいそう思って来た。

 

お気づきの方もいると思うが、呼び名はサイズではなく業界の違いだったのだ!!

 

特に下水のマンホールは中に入って作業する事も少なく、清掃や汲取の為に利用される。

逆に電気系のハンドホールは、内部に入って点検や接続等の作業がある、呼び名と機能が逆なのである。

海外では、一般的にメンテナンスホールと呼ばれている。呼び名は理にかなっているが、急に変わるのもみんな困るだろうから、

マンホールっぽくて、メンテナンスホールを省略した形で、「メンホール」に統一したい。(以下文中はメンホールに統一)

 

さて、メンホールの蓋の話しに戻ろう、福岡市は国内メンホール業界?において、3つの要因から話題の都市である。

要因のひとつは、日本最大手のメンホール製造会社「日之出水道機器」が博多区に所在していること。

この会社は世界でもトップクラスのすばらしい技術と荷重試験機などの研究設備を持ち、メンホール界のトップスターである。

昔、知人が勤めていた際にちょっとだけ覗かせてもらったが、宇宙船をつくるレベルでメンホールつくっている感があった。

 

もうひとつの要因は、日本で最も滑りやすいメンホールを設置している事。

 

 

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今から25年程前にデザインコンペで選ばれた、下水道施設の蓋が滑るのである。

福岡にお住まいの方なら良く目にしているあの三角の部分、直径600ミリのメンホールで約200㎠の溝の無い面がある。

こんなにも溝が大雑把な蓋は日本でもトップクラスではないだろうか、、、

だから雨の日にはスベるスベる!3角の上で前輪ブレーキかけたら脚払いされたかのようにヒックリ返るのである。

若手のお笑い芸人や受験生に申し訳ないくらいスベるのだ。(条件的にはスピードの出し過ぎや、ブレーキングに問題もある)

このデザインコンペ案!福岡市下水道局の資料を見ると、鳥・ヨット・街並みなどの抽象的なデザインの組み合わせ

 

  • 人の都、福岡市のアクティブなイメージがある。
  • デザインの面白さや現代性がある。
  • 他都市に無い斬新さ

 

が評価されたとの事。 スベらないという大事な機能性は、斬新さの前に敗北したのだ!

製造元は前出の「日之出水道機器」なんだから、それ危ないですよってアドバイスしてあげてほしかった!!

この斬新なメンホールの蓋で、雨の日に3回も自爆を経験した僕にとっては声を大にして言いたい。

「このメンホール、他の都市より、アクティブかつおもしろいように、スベリます!」

 

実は、この斬新なメンホールの蓋、平成18年から三角形の部分が9分割されたものにリデザインされている。

理由は「耐スリップの向上性」だそうだ、、、気づくのに15年もかかるのかぁ?(リデザインされて最近やっと目に付き出した)

凄く小さいメンホール(直径250ミリ)まで9分割されている、、、(ってことは機能の見直しでは無く、デザインの見直しにしたいのかぁ)

文句は沢山あるのだが、機能的に改善される事は市民として、好ましい事なので、溜飲を下げよう。

 

3つめの要因は、新しいメンホールの設置である。

百道にある福岡ヤフオクドーム周辺に足を運ばれた方は記憶にあると思うが、ソフトバンクホークスのマスコットキャラ「ホークファミリー」がプリントされた汚水蓋が点在している。また、薬院駅から福岡市動植物園までの道のりも植物や動物をモチーフにした汚水蓋が設置されている。

2つとも目的地までの距離などのデータが表示されており、足下に展開するサイン的な要素が強い!

 

 

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V2達成おめでとうございます!

 

 

 

新しい広告や機能的なサインとして注目したい。ただ、全てのメンホールがごちゃごちゃするのは若干いやだなぁ

日本中を旅行してもメンホールは地域の樹木や名所などをデザインモチーフとして、様々なデザインが展開されている。

視認性が高くて目立つデザインが良いとは限らない、、、京都などはきっちり石張りに合わせてデザインされており、感心する。

 

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日本中のメンホールの例
[右上]姫路 [右下] 山口 [左上]広島 [左下]大阪

 

福岡市も他地区に誇れる品の良いデザインのメンホールを設置して欲しいと思っている。

2003年にメンホールの耐用年数の目安が設定され、車道においては15年程度、その他は30年で交換されていくようになる。

メンホール好きとしては、古いメンホールが無くなっていくのは少し寂しい気がするが、良いデザインは形を変えながらも続いていくだろう。

良いデザインというと、古いメンホールの周りにはコンクリートの縁がまわっているのだが、最新のメンホールは鋳鉄製の蓋のエッジまでが舗装仕上げとなっている。景観的にはとても綺麗な仕上がりになるのだが、それを実現するための努力や手間は大変だと思う。

 

 

今後、古いメンホールは淘汰され、交換の機会に新しいデザインのメンホールが増えていくことになるだろう、、、

斬新すぎて機能性の低い、良くスベるメンホールだけは勘弁してほしいものである。

 

古いマンホール

周りにコンクリートの縁を持つ福岡市でも古い部類のメンホール

 

福岡市に2箇所あると言われている珍しい親子メンホール

福岡市に2箇所あると言われている珍しい親子メンホール(ダイエーショッパーズ付近)

 




ogata


建築家、NPO法人九州コミュニティ研究所 副理事長、日本キチ学会代表、九州産業大学非常勤講師。
著書:「秘密基地のつくり方」(2012)