2020.3.17 街を想う時 
ゆっくりと歩く場所

何度も訪れたくなる場所がある。
高い視点から遠く奥を見渡せる場所。
季節の変化をみつけに行く公園。
清々しい気持ちにさせてくれる水辺の風景。
よく行き詰まる私の心を整理し、落ちつかせてくれる場所が、福岡にはたくさんある。

今回は住む街を少し離れて、私が時間をかけてゆっくりと歩く場所をご案内したいと思う。

 

箱の池。

水辺に親しんでもらうため整備されたため池。
周りは遊歩道が造られていて、近くに住まう人々の憩いの場となっている。
背景の油山や池の色は、光の入り方、強弱によって変化し、
様々な表情を見せてくれる。池の中の山の緑に惹かれている。
時間帯を変えて何度か訪れた場所。撮影は午前中の静かな時間。

 

飯盛山へとつながっていく田んぼの風景。

この田んぼのあぜ道は石積みではなく、人が土を固めて作った段々畑だそうだ。
固められた土の斜面は、成長した草にやわらかく覆われている。
この草は美しく刈られて、穏やかな緑の風景ができている。
人が手入れをしないとできない風景だ。少し黄色く淡い稲の色、あぜ道、林、背景の飯盛山。
緑のグラデーションに包まれる場所。

 

高い視点から見た都市の風景。

タワー、展望レストラン、高層階のマンション、そして飛行機の窓からと、私は高い場所から眺める街の景色が好きだ。
高く、遠く離れてみると際立っている建物の存在は薄くなり、形も高さも壁面の色もそれぞれ違うのに、
ひとつにまとまった、デザインされた街にみえてくる。校庭の芝生の緑、どっしりと落ち着いてみえている山。
家々や建物をつなぐ緑で彩られた街。レンズを通さず長い時間眺めている。

 

博多湾に浮かぶ島の夕景。

都市高速を東から西にすすむと右側に博多湾の内海に浮かぶ島々がみえてくる。
特に日の入り前の時間帯が美しいと教わった。走りながら車の窓から見られるのは何秒くらいだろうか。
水面に光の粒が広がり、刻々と変化する雲の流れ。空の色。能古島の後ろに落ちていくまでの色味が温かい。
日の出入りは毎日の事なのに持ち帰ったものを見ると、何か特別なものが写っているように感じる。
左から能古島、玄海島、志賀島と近景に鵜来島と並ぶ。静かでおだやかな夕方の海の光景。
撮影は西公園西の端から。

 

陽が作った色の場所。

公園や自宅の庭木として利用される植木が栽培されている。
気候や立地条件が整っているのかどの木々も伸びやかに立っているように感じた。
春から秋にかけての光が積み重なった色の葉は、落ちても驚くほど鮮やかだった。
12月の低く射し込んだ光は敷地の隅々まで届き、触れた土にも温もりがあった。

 

諸岡池。

水を近くに感じながら歩くことができる美しい親水公園。
ご夫婦のウォーキングは会話をしながら歩幅を合わせて。
駆け出す一歩が力強い、タイムを計りながら本気のランニングをする人もいる。
日課の中に、この1周650mを取り入れ、日々のリズムを作っていると犬を連れた女性が話してくれた。
動かず撮影に夢中な私に、散歩途中の方が笑みの挨拶をしてくれた。1周されてもう一度すれ違う時に、
いい写真撮れてる?と声をかけて下さる。そんなやりとりが単純に嬉しい。
初めて会う人たちの通い慣れた日常の場所にお邪魔している感覚。
この池が親しまれている理由をいくつかみつけられた夕方の一コマ。揺れる水面から何か気配を感じ取る。

 

人の動きが作り出す風景。

何も目的を持たずに歩いても次から次へと様々なものが目に飛び込む。
大濠公園はそんな場所で、よく訪れる。
自然との接点、人との交わり。この公園に来ると心も体もよく動く。
私はここで人が点々と動き、偶然作り出す、平和な光景を探している。
もっと上から見下ろせば、撮影する私もその輪の中に加えてもらっている。

 

西公園。

引っ越しをしてすぐ、荷物が全く片付かない部屋で、ソメイヨシノの開花のニュースを聞いた。
2013年は特に早い開花で3月13日だった。
数日後、積み上げられた段ボールをそのままにして西公園に出かけた。
福岡で初めてのお花見だった。さくら谷の一番低い位置に立って見上げると、
ぐるりと囲まれた桜からの光で満ちていて、歓迎されたような気持ちになっていた。

 

舞鶴公園。

ここには約1000本の桜があるそうだ。
ソメイヨシノより一足早く咲く陽光から始まり、少しずつずらしながら4月中旬ごろまで
様々な種類の桜が続いて咲いていく。桜が咲くと全てを明るい色で満たしてくれる。
舞鶴公園では毎年福岡城桜祭りが行われ、大勢の人で賑わっている。
その中でお子さんを対象とした桜講座が開かれていて(残念ながら今年は開催されないようだ)
桜の種類やその特徴を学ぶ。桜はずっと見つめてきたはずなのに知らないことが多くて奥が深い。
解説を聞きながら虫眼鏡で覗き、細かい部分を観察する。桜の語源やお花見の歴史などにも話が広がり楽しい内容になっている。

最初に参加した年にこの樹名板を書いてソメイヨシノの木に掛けてもらっている。
この樹名板は剪定されたエドヒガンザクラを利用して作られていて他の桜よりも不朽に強いそうだ。

この木との繋がりを強く感じるようになって、それ以来近くを通ると必ず会いにいっている。
場所は舞鶴公園お鷹屋敷跡。

 

今年ももうすぐ桜の季節がやって来る。
満開の桜の下から眺めていると、1年間何をしていた?と毎年問われているような気がする。
何も答えずに黙っていると、舞う風で枝を揺らし髪の毛に触れる。
その瞬間、何か許してもらったような、そしてエールを送ってもらったように思えてくる。
いつからかそんな桜に頼っている自分に気づく。

桜は、人にも街にも輝きをもたせてくれて、また次の季節に導いてくれる、そんな存在だ。
今年もまた、ひとつひとつの花を眺めながら、ゆっくりと歩く。




小栗祐子


写真家 大阪府出身
写真家 田中仁氏に師事。
2013年 神奈川県より福岡に拠点を移し 活動中。
趣味はデパ地下巡り。