2020.3.3 風景にかかわる 
路上観察

ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。

(サン=テグジュペリ「人間の大地」より)

 

この仕事を始めてから、下(足元)をよくみるようなりました。というのもランドスケープの設計では広場や公園の舗装、降った雨水の流れ、植物の土、つまり地面のあり様を決める場面が多く、歩いていると道路のアスファルト、道端のコンクリート縁石、神社の石畳、車道脇の側溝、歩道の花壇、、、等に目が行きがちです。もっといえば、その傾斜や表面の凹凸、素材の種類、幅、色、、、地面と向き合うことが多く、こんな要素に注目しがちです。20年くらい前に福岡市内の都心部の歩道がインターロッキング舗装【※1】からベンガラ色【※2】のカラーアスファルト舗装に変わり始めた時に、特に色について関心を持つようになりました。ランドスケープで描く、造成、舗装、排水、植栽の図面はいずれも地面と接していて、切り離されることはまずありません。

 


:2003年ころ、奇特にも歩道についてフリーペーパーをつくってみました。最近はベンガラ色の歩道は少し減ってきたかもしれません。
:2019年 左の写真と同じ通り。最近はベンガラ色の歩道は少し減ってきたかもしれません。
:道路の水たまりは色々な意味で気になります。

 

働き始めた頃は素材の見た目ばかりに気を取られていましたが、バリアフリー計画のワークショップで車椅子に乗せて頂き、傾斜が気になるようになりました。傾斜と言っても段差を解消するようなはっきりとしたスロープではなく、地面に降った雨水を側溝に流すためにつけられたほんのわずかの勾配。数字にして1〜2%程度【※3】ですが、この僅かな傾きが車椅子の舵取りに左右します。また3%あたりから見た目の「傾き」も気になります。この手の傾きが現れるのは、得てして意図していない場所で、それは建築の床の高さとのとりあいで生まれた負の産物にほかなりません。建築の床は降った雨水が屋内に入り込まないよう高くしますが、敷地も完全に平らではないため高低差が大きなところもできます。高低差が大きな場所は僅かな勾配ではすりつかず、帳尻を合わせる必要があるのです。そうなればコンセプトの世界はそっちのけ。数百メートルが広がるランドスケープの平面の世界の中で、必死に数cmの基準と悪戦苦闘し、一生懸命に解こうと数字を睨み続けます。小さな図面や画面の世界の泥沼に陥るのです。

 

段差ができた敷地をみるたびに、都市の地面は思ったほど平らではないと感じてしまいます。

 

一介の設計者が足元の小さな沼に足をとられる一方で、もう少し視界を引いて、「路上」で通りの空間を捉えた人がいました。かつてニューヨークの大規模開発からダウンタウンの街の風情を救ったジェイン・ジェイコブズ【※4】です。彼女はニューヨーク在住の主婦でありながらジャーナリストでした。通りの花屋や路上のマンホール蓋の観察記事が雑誌等に掲載されていました。その後、天才的な洞察力と行動力により、建築や都市のスケールの中で人間を中心としたまちづくりを広く訴えるようになりました。著書も多く、都市計画界隈では著名な人物です。とかく彼女は通りの観察力に長けており、通りのどのような要素が、人々の活動にどう作用しているのか。例えば夜、歩道にいた人達が踊り始め、家の窓から見ていた人々が拍手していたとき彼女は、通りが昼夜問わず安全なのは、いつも歩道が誰かに使われているからと考察し玄関の前の階段は、人が集まり雑談する場所になると考察しました。路上の些細なこと、もしくはそのいくつかの些細なことの関連性から古くからある通りの大事な要素、うまく機能するための要素を分析するのでした。彼女はそれを理解できる人をペーブメントパウンダー(意味は歩道闊歩。虫瞰的に都市を捉える路上観察派を指す。)と呼んでいたようです。

 

最近の路上観察
:⻄中洲の⽯畳。⾦沢の主計町(かずえまち)、京都の先⽃町(ぽんとちょう)を思い出させる。舗装の凹凸で酒を運搬する台⾞が通行しにくいとややネガティブ面が話題になったが、表面、小口とも大胆に粗いノミ仕上げで⾵情がある。
中・右:最近改修された櫛⽥神社の参道。車も通るので、石ではなく⽯畳⾵の舗装でした。石畳風の目地と6回!塗装して仕上げたらしい

 

思うにこの仕事の大半は観察であると言っても良いかもしれません。「書を捨てよ、街に出よう。」は多少言い過ぎですが、外に出れば万巻の書より、地面の方が多分に色々と教えてくれることもあるような気がします。良い意味でも悪い意味でも僕らの仕事はたくさんの見本が身近にあるので、多くの先人達の悪戦苦闘具合を観察しながら、判断を読み取り、ひとつひとつに丁寧に向き合う事が大事におもいます。

サン=テグジュペリ【※5】は、冒頭の言葉の後、「理由は、大地が人間に抵抗する。人間というものは、障害物に対して戦う場合に、はじめて実力を発揮するものなのだ。」と綴っています。僕たちの仕事は与えられた敷地に快適な居場所をつくろうと試みます。時にはその場所を決定づける多くの自然や古くからあるものを覆うことも。そのことをきちんと踏まえて、地面と悪戦苦闘できているか。骨材【※6】の粒径、目地の位置、石の並べ方、水たまり、土の乾き具合。街を歩いていると、時折目線を下げて色々と確認したくなるのです。

 

意外と楽しい地面の表情

みなとみらいカップヌードルミュージアム、星のやハルニレテラス、出島表門橋、丸の内オアゾ、 天神地下街、天神ビル、船場ビルディング、ロームシアター京都、八千代町庁舎い

 

【※1】並べたコンクリートブロック同士がかみ合うことで地面から外れにくくした舗装。景観整備では多用されてきた舗装材。
【※2】土を焼いて作る赤色の顔料。インドの地名が由来。
【※3】かつて歩道の排水勾配は排水性能を優先して2%程度であったが、バリアフリー法施行以来1%前後が主流となった。車いすやベビーカー利用者への配慮等から勾配具合が定められている。
【※4】ジャーナリスト。道路計画や都市計画、大規模開発の反対運動等を行ってきた活動家でもある。観察力の鋭さから常識の天才と呼ばれ、有名な著作「アメリカ大都市の死と生」のなかで、モダニズムが都市の衰退原因とする自論を展開している。
【※5】星の王子さまの著者として有名。「人間の大地」は郵便輸送のためのパイロットだったころの話。
【※6】アスファルトやコンクリートの材料となる砂利。



浅田 英司


1975年福岡生まれ。
農業土木コンサルタント、交通計画事務所、土木デザイン事務所等を経て、
福岡のランドスケープデザイン事務所に勤務。登録ランドスケープアーキテクト。