2020.2.22 街を想う時 
山ノ鼻古墳公園 創造の風景

JR九大学研都市駅の南口を抜けてまっすぐ進むとすぐ正面に、なんとも親しみがわく柔らかな曲線の丘が見えてくる。
「山ノ鼻古墳公園」だ。今ではこの街のシンボリックな存在となっていて、陽が傾き薄暗くなっても大勢の人がいる。

マンション生活で庭をもたない私にとっても、
1日2回は通り土の感触や草の匂い感じることができる、暮らしの延長線上のような場所だ。

私が引っ越してきた当時(2013年)は、赤味を帯びた土の広大な敷地の中に、こんもりと草木が茂った丘があった。
抜けるような青空の日には、その自然の色の組み合わせがとても映えていた。

この丘は、「山ノ鼻1号墳」という古墳時代前期(4世紀)に築造された前方後円墳だ。
私の住む西区の今宿平野に広がる高祖山(たかすやま)から叶岳(かのうだけ)の麓に、12基の前方後円墳がある。
そのうち、この山ノ鼻1号墳を含む7基は規模が大きく、この地を治めた有力首長の墓と考えられ、
2004年にまとめて国史跡「今宿古墳群」として国の指定を受けたと説明がある。
調べるまでこの丘が古墳とは思わず、それからは通り道にふっと現れるこの墳丘が気になり、引いた場所から眺めていた。

 

20132014

 

この赤い土は元々の地山の色で、花崗岩が風化して土壌中に残った鉄が錆びたものだそうで、特に西日が射し込む時間帯には、
この色が浮かび上がって存在感が増し、こっちに近づいてきているような、そんな可笑しな感覚にとらわれていた。

2014年頃から徐々に古墳周辺の整備が始まり、
”新しく公園を作っています” と書かれた掲示板があった。完了予定は2016年2月。

古墳と公園? あの墳丘はどうなるのだろう。
低く下がっているあの土地には何ができるのだろう。
そして高さのある墳丘と低い場所の高低差をどうやってつなぐのか。
また新たに心引かれる対象が加わった。

マンションなど建設中の現場は、安全対策のため工期中にネットが張られ途中を見ることができないが、
この現場は最後まで囲いがされず、それをいいことに、日々そこに視線を向けていた。
古墳という特別な場所。形が丁寧に整えられていき、斜面では上へ下へ、そして横に移動するという作業が繰り返されていた。
この土台作りの過程をニ度と見ることはないと思うと、とりあえずおさえたいという強い感情が動きにつながっていた。
今この記録を見ながら当時のその気持ちと、淡々と展開されていった現場の光景と、
被写体からの反射の光の中に自分がいた事を思い出している。

 

20152016

 

山ノ鼻古墳公園ができてもうすぐ4年が経つ。
いつもにぎやかで、友達の名前を呼ぶ声、明るく笑いあう声。くっついたり、走り回ったり、子供達は本当に自由だ。

低く下がった空間にはロープが張られた遊具があり、枝を大きくのばした樹木のような形で子供達はしっかりと足をかけ、
一気にてっぺんへ向かう。またロープの上を空中散歩しながら横にも広がっていく。
隣の土の広場では仲間達と走る姿があり、秋には灯明祭りが開かれ集まった多くの人達の顔を明るく照らす。

気になっていた古墳は上に新たな盛土を行って保護され、本来の形が表現されている。
保存や調査のために柵があって近づけない古墳も多いが、ここは墳丘に登ることができる。
地面からの斜面には、緩やかな勾配のある道が続きそのまま墳頂までつながっている。
設計士の方にお話を伺うと、自然のままの昔の風景を再現されたという。
確かに季節によって様々な種類の植物が成長し、柔らかくからみあって斜面の色や形が変化し、小さな里山のように見えている。

その斜面の道を小さな男の子がひとりで一歩一歩上へと登っていく。途中、下から見守る小さく見えるお母さんに手を振って笑う。
そんなご機嫌な2人の間に立っている私は、その様子につい微笑んでしまう。
小学生は2人以上集まれば、墳頂まで全速力ダッシュで駆け上り、折り返して転がるように降りてくる。
死角を作らない安心な公園。たくさんの人々が集まる愛される公園に。設計士の方がおっしゃった言葉だ。

帰ろうとした時、墳頂で学生さんと出会った。一番高い場所に腰を下ろして音楽を聞いていた。
そしてここからの眺めが一番好きだと話してくれた。好きな時間に立ち寄り時間を過ごす。
ここで、一呼吸おくことを大切にしているように感じた。家と学校ともうひとつ、この公園が「自分の居場所」となっている。

土の広場に目を移すと、そこにいる人達に夕陽が当たり、明日へと背中を押してくれているように見えた。

ここに地域のコミュニティがうまれ、人がつくる新しい街の風景ができあがってきている。(つづく)

 

20192020

 

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小栗祐子


写真家 大阪府出身
写真家 田中仁氏に師事。
2013年 神奈川県より福岡に拠点を移し 活動中。
趣味はデパ地下巡り。