2019.12.24 街を想う時 
街をみつめる

2013年3月。福岡市西区の住人になった私は、次の日から陽が昇る様子を見ながら朝食をとっている。
幸運なことに東の角部屋が空いていた。
建ったばかりのマンションで、広くもなく狭くもなく住み心地がちょうど良い間取りで、
九大学研都市駅からは徒歩10分以内。日常品がほとんど揃うショッピングモールもすぐそばだ。
当時はおいしいパン屋さんを見つけることができなかったが、
希望していた「家探しの条件」のほとんどが叶っていた。

そして見つめる窓の先には派手で仰々しい色の看板はなく、なだらかな傾斜の山が見えている。

ただ、想像していなかったのは建物の外の光景だった。

見たことのない重機がトラックに載り存在感たっぷりに道を進み、コンクリートを運ぶミキサー車が何度も往復している。
ダンプカーやショベルカー、周辺は工事車両が並んでいた。
それらを誘導する警備員の笛の音と、地面をならす振動。
春風と埃風と、響き渡る音すべて一緒に舞い上がり私に届いてきた。

外はまさに街作りの真っ最中だった。

 

 

見晴らしの良い場所に立ち、街に向かい視線を動かしていく。

私は、遠く小さく見える現場で働く人々の動きを目で追っていた。

空を舞台に、力強く、時にしなやかに立ち回っている姿があった。
夏の日照りの日も、氷のような雨の日も風の強い日も、一番上にいる。
地面では身をかがめて土台を作る作業が続いている。

近い将来AIが人の仕事をする時代がくると記事で読んだが、
高層マンション、野球練習場、学校、店舗。どの建設現場にも今、目の前には大勢の人がいる。

人が立ちあい指示を出す。熟練の職人技で繊細にクレーンを操作していく。
声をかけながら、資材をリレーで上に運ぶのも人の手だ。

大きな建造物は、それぞれの手作業が積み重なり造られている。

 

距離を保ちながら一方的に視線を向ける私は、その場所を変化させる人の進行形の姿を、ただ残しておきたかった。

あの高い場所から一体どんな景色が見えているのだろう。いやきっと、危険が伴う仕事でひと時も気が抜ける時などないだろう。
そんなことを思い、その位置からなかなか立ち去ることができずにいた。
目の前のスピーディな時間の流れから、一人取り残されているような感覚だった。

 

 

そして私が住む建物も、きっとあの現場のように様々な分野の職人さんが大勢集まり、季節をまたぎ同じような工程を経て建てられたはずだ。
鍵を受け取り何もない部屋に入った時、新しい匂いがあるだけで、その人たちはすっかりそこを離れていた。

私は、その存在を全く気に留めてこなかったように思う。

 

年度変わりの春。引越し業者の車が道に連なり停まっている。
私のようにこの街を選び、新たな生活をスタートさせる人たちが続々とやってきている。

街はまだまだ変化の途中だ。
どこからか金属の足場を組み立てる音が聞こえてくる。また新しい建設が始まるようだ。
次は何が造られるのだろう。

その音を頼りに、空を見上げながら寄り道をしている。(つづく)

 

 

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小栗祐子


写真家 大阪府出身
写真家 田中仁氏に師事。
2013年 神奈川県より福岡に拠点を移し 活動中。
趣味はデパ地下巡り。