2015.7.13 くらしのにおい 
でん柱でござる

01_電柱表紙

拙者の昔の名前は、「ウ271」、腕金と髷と名前を失った悲しき電柱でござる。

 

現在の拙者の姿は、配電線や電信線を持たず、「虎皮の膝宛(電柱標識版)」と「胴巻き(マジックシート)」、「巻き広告」以外はまる裸、

「電柱番号札」を外され、両隣の電柱から転倒防止の鋼線(ワイヤー)3本で引っ張られた、まるで捕縛された石川五右衛門の如き姿でござる。

 

02_ウ271

引っ張られて少し傾いているのでござる

 

拙者がかのようなみっともない姿になり申したのには訳がござる。
近年の電線の地下埋設化の大波に飲み込まれたあげく、抜き取られる同志を悼みながら、その場に取り残されてしまったのでござる。

そもそも電柱は日本中に3500万本もあり、電力会社所有の電気供給の為の「電力柱」と、通信会社が持つ「電信柱」の2つの種類があるのでござるが、拙者は元来、九州電力所有の16mを超える、こんくりーと製の「電力柱」でござった。

城南線に位置し、立派な腕金と沢山の碍子により6600Vの高圧線を3本支え、寺小屋(笹丘小学校)方面に分岐し、バケツと呼ばれる柱上トランス(変圧器)を携え、電圧を200Vへ変換したのちに、各民家などへ電気を供給してござった。
また、電信会社との共同利用という形で、電話線や光ケーブル、ケーブルテレビ配線を同時に支えておった。
柱頭には「ハガネの髷」がついており、落雷時の過電圧を防ぐアースの役割になる電線で「架空地線」が通っておった。
一昔前は090金融のチラシが張られており、今でも痕跡が残る。現在は小学生の通学路を表示する胴巻きをかけてもいるのでござる。
100m先にあり拙者と鋼線で繋がっている「ウ281」とほぼ同じ機能であった。彼と互いに鋼線で引っ張りあうのが拙者の役目でござる。

もう一本の鋼線で繋がった弟弟子である「ウ272」は、公園の為の低圧受電と交通標識の為に取り残された電柱でござる。
送電線が通っていることで、彼は電柱として名前を残され、拙者は名前を失った。

 

03_ウ281

拙者が引っ張っておる電柱ウ281:ミラーや街灯がついておる

 

04_ウ272

弟弟子の電柱ウ272:道路標識(一旦停止)、支線と支線カバー、埋設立ち上げ鋼管、使っていない小さい腕金

 

話しは変わるが、そこもとは送電線が何故3本一組かご存知であろうか?
電柱である拙者自身、「断線時の予備線」だと誤解していた時期がござった、最近になって3相交流という言葉を覚えたのでござる。
周波数と位相値というエヴァンゲリオンのシンクロ率的なグラフが理数系武士の琴線に触れるのでござる。
これが発電機のコイル形状と関係があり、独逸のあえげ(AEG)や米利堅のじーいー(GE)という台所の家電メーカーと繋がって
東日本と西日本の周波数(50Hzと60Hz)の違いの話しへと膨らむのでござる。

脱線ついでに申すと、低圧送電線による家庭用の電圧には、単相100V、単相200V、3相200Vの3種類があるのだが、
これも3本の低圧送電線の1本1本が別の種類ではなく、3本束ねて受電すると3相、3本の内の2本から受電すると単相となるのでござる。
触った電線によってビリビリやビッリビリビリなど痺れ度合いが違う訳ではござらぬ。
電線は3本のうち2本以上に触ると感電するのでござる、鳥が感電せずに休む事ができるのはこの理由でござる。

 

 

電線類の地中化について話しを元にもどそう、そもそも仏蘭西や米利堅の都心部では、ほぼ十割がた電線は地下埋設なのでござる。
物見遊山の写真を見るとよくぞわかろう、これと比較したら日の本ではまだ一割未満と云う、なさけない数字ゆえでござる。
しかし福岡市は地下埋設が日の本においてまあまあ盛んな集落でござろう、昨今も市内の至る所で普請中でござる。

電線の地下埋設化は、本当に良策なのであろうか?
都市景観的には、空中に飛び交う電線のたぐいがスッキリと見えるのでござるから、いと良き話しであろう。
立体長屋(マンション)などの普請の際の養生の防護管(黄色いやつ)の設置が要らぬばかりか、クレーン作業は倍の効率であろう。
博多祇園山笠等のまつりとも相性が良く、凧上げやブーメラン(最新はドローン?)もやり放題! でござる。
また、災害時にも電線の断線や電柱の倒壊がなくなるのだから、台風の多い九州には良き話しでござろう。

ならば、デメリットはござらんのであろうか? いくつか挙げてみるにござる!
電線や電柱がなくなると、鳥が羽をやすめる場所、巣作りする場所等が無くなる。犬のマーキング(おしっこ)場所がなくなる。
探偵の尾行時の隠れ場所がなくなる、暴走車両の停止装置としての役割がなくなる。
ありゃ、どうでも良い理由ばっかりでござるな。
地上に出てくる配電箱(変圧とらんすや開閉機が入っている)が結構大きいので、狭い場所での埋設工事が難しい事
また、地上架線と比較して地中埋設の為の工事に費用が10倍と、費用かかりすぎるのもデメリットでござろう。
現在では、景観的に重要な通りや、歩道付きの幹線のみの無電柱化を中心として、配電箱への美的な処理や、裏配線(裏道に配線を移す)
などにより、経済的な修景なども行なわれているらしいのでござる。

 

05_配電箱

拙者と入れ替わった配電箱:変圧器と開閉器が入ってござる

 

 

やはり、拙者は時代に取り残された遺物なのであろうか?

 

拙者が思うに、美しい電柱が減ったのは、情報社会の加速により光ケーブル等の新しい空中架線が増えた為でござろう。
配電だけの単純な状態の電柱と配線は結構美しいものでござる。(とある立体長屋(マンション)の引き込み柱は、<じぇっと・すとりーむ・あたっく>を連想させる美しさでござる)

 

06_JSA

手前から順に、ガイア、マッシュ、オルテガでござろう。

 

 

いろいろな業者が携わり、行き当たりばったり的な無秩序が入り込む事での煩雑な状況が、ピンクチラシや落書きによる低モラル感が
「電線」や「電柱」は景観悪であるとの印象がうまれたのではござらぬか?
近年の米利堅では埋設工事改修の際、設置費用の安さから送電柱が見直されつつあると、風の便りで聞きかじってござる。
いつか、懐かしい景観として、木製の電柱と碍子による電線が見直される時期が来るのではなかろうか?

 

薬院六つ角のキ354、これだけ電線が集まれば壮観でござる。

薬院六つ角のキ354、これだけ電線が集まれば壮観でござる。

 

 

立派な腕金をもぎ取られハガネの髷を切られても、ただの柱(武士)としてやるべき何かは残っておるのでござる。
拙者は現在、穏やかな心持ちにて、寺小屋通いのわらべ達を見守っており、近所の犬のおしっこを受け止めておる。
それが拙者達、使われなくなった電柱の武士道でござる。

 

08_電柱でござる

 




ogata


建築家、NPO法人九州コミュニティ研究所 副理事長、日本キチ学会代表、九州産業大学非常勤講師。
著書:「秘密基地のつくり方」(2012)