2019.8.15 風景にかかわる 
垂直、水平

 

古代のローマ⼈は、延々と続く街道の敷設とは延々と連なる防壁を築くと同じ、と考えていたのであろう。ローマ街道とは幹線ともなればことごとく、⼀⾯に⼤⽯を敷きつめた四メートルを超える⾞道と両側三メートルずつの歩道の計⼗メートルを超える幅を持ち、深さも四層から成る⼀メートル以上にもなるように設計されていたからである。「⽔平」であるこの街道を「垂直」に⽴てさえすれば、堅固な防壁に⼀変するのだった。

(塩野七⽣「ローマ⼈の物語27―すべての道はローマに通ず」より)

 

建築の図⾯と⽐べると、ランドスケープの図⾯はかなり「⽔平」を感じさせます。外構設計【※1】であれば建築に付随する程度ですが、公園や学校のキャンバスともなれば、とても地⾯が広く、施設⾯積の何倍にもなります。図⾯で100m四⽅の公園と⾼さ約5m樹⽊を、A1サイズ【※2】に描こうとすると、⽔平⽅向は紙の⼤きさ⽬⼀杯使いますが、垂直⽅向は数cm程度なので、その紙の上になにが描かれているのかはわからないかもしれません。その反⾯、1haの平⾯図はダイナミックに考えることができ、⾒映えする図⾯にもなります。(そのせいか⼒のこもったお絵描きにもなりがち。)

 

ランドスケープ事務所に通い始めた頃、壁⾯緑化の設計を⼿伝うことがありました。世間ではまだまだ珍しい状況でした。デザインや⽣態というより、機構的なものや、建築をギミック的に緑化しなければならない状況、制度等に興味を持ちました。その後壁⾯緑化技術が進むに連れて、表現としての植栽の⾃由度も上がってきましたが、ランドスケープというよりは建築的だなと感じてしまいます。壁の有効利⽤で新たな植栽地という⾒⽅【※3】もありますが、多様な植栽もユニット式の垂直な⼟⾯や宙に浮いている姿を⾒ていると、僕はやっぱり建築の壁のバリエーションに感じてしまいます。

 

:⼀般的な壁⾯緑化。垂直の植栽を⽀える鉢も垂直。(最近は更に進化中)
右上:不織布のポケットに⽔平に植えられた壁⾯緑化。建築と植栽がうまく融合していて、垂直ながら壁感より庭感がある。
右下:警固公園のリニューアルを⾒てファサードを改修した商業施設。⽔平(公園)に垂直(建築)が呼応していて興味深い。

 

パリのバスティーユ、ニューヨークのハイライン等廃⽌された⾼架鉄道の敷地を緑豊かな遊歩道にした場所があります。垂直な⽴ち上がり、眺望、エッジの効いたデザインに多分な建築的魅⼒を感じるわけですが、それでもここを通ってランドスケープが感じられるのは⽔平の要素が強いからかもしれません。(もちろん緑の要素もありますが)ハイラインの設計をコンペで勝ち取ったランドスケープアーキテクトは⾃⾝のエッセイで 「垂直ではなく、構造に依存するよりも造園中の⽔平⽅向の配置の使⽤を念頭に置く」と書かれており、都市のさほど⾼くはない空中を⽔平に展開する⾯⽩さがあるように思えます。

 


パリの高架線跡の遊歩道。

 

かつて庭園家の重森三玲【※4】は全国の庭園500箇所を実測調査してまわりました。その成果はお弟⼦さんの⼿によって詳細な平⾯図のみで描かれています。⼀般的な⼯事平⾯図とはまったく異なり、庭園の⽯や樹⽊の配置が美しくドローイングされており、⼀⽊⼀草も漏らさぬといわれるくらい細かに表現されています。庭だけでなく建築の間取りも表現されており、関係性が表現されます。もし⾃分がこの平⾯図の中に⽴てるのであれば、借景があって、その⼿前に⼤きな⾚松があり、、、と⽴つ場所でのシーンの違いさえも想像できそうです。

 


続・実測日本の名園。A1大の図面には細密画的 なところも多く見ていると引きずり込まれる。(福岡市植物園の緑の相談室に蔵書がある。)

 

昨年夏、建築家の⽯上純也⽒が設計したアートビオトープ「⽔庭」という作品を⾒に⾏きました。⼀般誌等でも話題になったランドスケープです。元々は開発で伐採する予定だった⼭の樹⽊を300本以上移植して、160もの池と⾶び⽯とともに再構成した「庭」だそうです。その綿密な配置は⽯上⽒が模型等をみながらきめたそうです。地形や樹⽊等いわば造園では現場合わせ【※5】的な要素も、壁や柱を建てるがごとく全て事細かに位置出しされていたそうです。⾯積が1.5ha以上に対して⾼低差は⼤きくなく、160もの池が数cmの⾼さの差異を落ちていきます。そしてその広い敷地の図⾯には、⾜元半径数10cmレベルの世界には⾶び⽯の配置が詳細に描き込まれていて、平⾯図を⾒るだけで、その空間を歩いているような気がします。同じく⽯上⽒が設計したランダムな柱が特徴の神奈川⼯科⼤学のKAIT⼯房にも似たような感覚があります。⽔庭もKAIT⼯房も排⽔や構造の原理を使って、⼀般的な部屋のある建築の平⾯にはない、のびやかな⽔平を感じさせます。そして平⾯図にもかかわらず、樹⽊の存在や⽔⾯への反射、⽊々への光への差し込み⽅等垂直的な要素が感じらます。そういった要素が平⾯図で表現されることで、かえって⽴⾯的な⾵景の想像が膨らみます。

 

⽔庭とKAIT⼯房、全然違う⾒た⽬だがどこか似ている。

 

冒頭の⾔葉は古代ローマ帝国の物語をたくさん執筆されている塩野七⽣先⽣の⼩説シリーズの⽐較的特殊な⼀冊で、⼩説の背景を解説するためにローマ帝国のインフラの詳細と哲学を取り扱ったものです。その中で紀元前の⼟⽊事業であるローマ帝国のローマ街道と秦の万⾥の⻑城を⽐較しています。ともに⼤国家で世紀の事業を成し遂げる技術⼒があります。⾃国の防衛において、⼈の往来を促進するか断つか、その考えの差の結果が形として「⽔平」と「垂直」にわかれたと分析されています。よりよい都市環境をともに考えていく中で、垂直側に加担するか、⽔平側に加担するかは案外紙⼀重で、古代の建設⼈はそのことをよくわかっていたのかもしれません。

 

【※1】建築周りの外部空間や外部構造物(舗装や花壇)の仕上げ。
【※2】594mm☓841mm(JIS)
【※3】最近では場所や制度によって敷地内緑化が義務づけられる場合があり、敷地内緑化だけでは指定された緑化量に不⾜する場合、屋上や壁⾯を緑化することで要件を満たす。
【※4】モダンで前衛的な作庭で知られ、京都の東福寺⽅丈庭園が有名。福岡では光明院庭園を⼿がけている。名前は改名で画家のミレーに由来。
【※5】図⾯⼨法どおりにできない場合に、現場で修正して合わせること。樹⽊は⼨法が明確ではないため職⼈が現場をみながら植える位置等を微調整する。



浅田 英司


1975年福岡生まれ。
農業土木コンサルタント、交通計画事務所、土木デザイン事務所等を経て、
福岡のランドスケープデザイン事務所に勤務。登録ランドスケープアーキテクト。