2019.6.11 世界を旅してきた中で 
ランドスケープのつくられ方(その7)

 

 

改めてクリエイティブブロックとは?

 

 

二項に渡って筆者が展開する創造区画の作られ方のエピソードと、いくばくかそこからえられた汎用できるポイントについて述べてきたが、ここで改めて湯沢のケースを元の意、5つの創造区画の構成要素をまとめておきたい。(図参照)

 

 

湯沢の場合は、偶然にも湯沢の文化伝統の魅力を事業を通じて形に変えている、ヤマモ味噌醤油の高橋泰さんと出会ったきっかけを最大限レバレッジさせました。まず、高橋さんとの対話やこれまでの経験や調査から、この地域全体に普遍的に”発酵”という食文化が生活レベルに築き上げられていること。また、高橋さん自身も様々に改良を重ね、多角的に”発酵”を捉えながら表現をしている。それが同社の事業拡大にも繋がっていった。

ここで、この地域の特性や個性を”発酵”と捉えられたこと。そして、そのテーマが新たに作られている言葉よりも、地域の人たちにとっても馴染み深く、また、都市や外国の人たちをも魅了する切り口であると一層個性は強くなり、そこに訪れる旅行者の発酵がテーマの地域=湯沢という認識と記憶をもたらすことができる。これを地域ブランディングと呼び、なおかつ、狭義な都市開発としてのゴールと位置付けたことがのちに功を奏したと言える。

 

 

次に、経済性=希少価値については湯沢の創造区の場合はどのように印象付けていったのだろうか?

これは、Fermentators Weekの取り組みを筆頭に、東京などの都市では味わえない経験づくりに徹したことが核である。例えば、900坪の醸造所で有名アーティストやDJたちとオールナイトで展開される音楽イベントは、他のフェスやイベントでは一度も聞いたことがないし、多くの人は参加したことはないだろう。また、一面銀世界をパノラマを舞台に一流シェフが地のものと発酵技法をふんだんに活用して考案された”発酵”フルコースや、その後に銀世界の中でつかる露天風呂、国内外からあつまってくれた発酵ギークたちによるワークショップ、そして、なによりもそこで出会う人との交流や知的好奇心の向上は経験価値となる。しかも、週末の3日間で往復ができる格安バスチケットの販売の結果が、東京からの参加者の増加にもつながった。故に、希少性の高さは担保されているといえる。

 

 

テクノロジーは技術の活用なしには競争優位性はどんなに頑張っても難しいだろう。発酵都市を掲げている湯沢で展開される創造区ではAIを活用して、例えば、複数種類の日本酒の適切な分析、世界で最も読まれている小説や音楽を聞いている時の人間の心理的気分(雰囲気)を指数化して再解釈させたデータ、日本酒本来の甘み、絡み、旨味などの成分に分類した上で、どの雰囲気にはどの銘柄のお酒が合うのか?など、ここに、試飲者個人のデータを加算させていくことで、フィーリングで飲み比べをさせるよりも数倍的確で味覚の幅を広げてくれる可能性に挑戦をしている。言葉で表現するとやや難解になるが、こういった小さな努力を積み上げながらも、世界から最適なテクノロジーを遊びこころを持ち合わせながら実験しつづけることこそ、”想像力を掻き立て、創造力を発揮させる舞台”作りにほかならない。この他にも、発酵の研究はより深いレベル進められており、今後はバイオテックなどの有権者も巻き込みながらまだ見ぬ発酵の魅力を掘り起こし続けていく。

 

 

次に、政治=寛容性について触れたいと思う。新たな取り組みに対しては、どうしてもリスクをとった創造区画の主催者たちに自由を与えることと、周辺地域からの応援を集める免罪符の発行がなによりも功を奏す。一般的には寛容性ともいわれているが、言葉のチョイスとして理解しやすい方で捉えてもらいたい。1回目の発酵イベントでは400世帯の人里離れた村に突如4-500人の人が一夜にして集まり、音楽を奏で、騒ぎ倒すことを企画した。しかもある程度の音量を朝の4時まで。それが初回のイベントでの最大の不安事であった。なによりも、地域住民の8割は高齢者である。三味線や民謡ならまだしも、テクノミュージック、ハウスやレゲェといったジャンルに耳を傾ける高齢者はほぼいない。会終了後の地域住民からのクレームは必至だろうと予測していたが、奇跡に近い1名からのクレームにとどまった。そのクレームの内容は、朝方飲みすぎた参加者の一人が戻してしまった行為とその際の雑音に対しての柔らかい注意のみであった。翌朝すぐに謝罪に足を運んだが、「まぁでも頑張って」と声をかけてくれた。

 

第二回目においては、既にスキー場としては閉鎖されており、湯沢市管轄の指定管理者との間には、ややこしい亀裂はいれたくないというのが市長をはじめた行政側の意向であったが、私たちも、冬の開催はそのスキー場での開催以外ないと引かなかった。そんな押し問答を繰り返している中で、一人の職員が全ての責任を背負って休日返上でイベントの舞台を作り込んでくれた。また、行政的な説明責任なども発生するためにキーパーソンへの合意形成も水面下で足早に進めておいた上で、市長への再プレゼンの機会を作ってくれた。助成金や補助金はあるに越したことはないし、非常に感謝するが、その反面報告義務や規定などのルールで雁字搦めになるケースがたえない。その一方で、今回の一人の行政職員が勇猛果敢に動いてくれた行為は、語弊はあるかもしれないが1,000万円以上の価値があると私たちは考えている。つまり、ただ、自由にやらせるのではなく、舞台装置家として舞台設計に携わっていることがなによりもの価値となりうる。

 

これら4つの構成要素が軸となり、地域内外への接続性を普遍的に紡がれたテーマ=地域ブランディング(発酵都市)の傘の下に高めていくことが、創造特区が追いかける唯一の定量的KPI といえよう。人の交流には、目的や何よりもレスポンス=反動や反応がある。希少性があればお金が支払われるし、その希少性を担保するためには技術的バックアップも必要となる。さらに、その地域ならではの舞台や交通規制などは大方行政や政治に関わるために、彼らの寛容性が必要となる。したがって、この5つの切り口が創造特区の樹立には必要である。

 

創造区画家としてのこれから The vision as ”The man of Creative Blocks”

 

最後に少し将来的ビジョンを話しておきたいと思う。

 

私は、この連載を持たせていただく中で様々な経験をさせていただきました。連載開始当初、実は私は九州のとある島で地域づくりのプロジェクトの一部を少し手伝わさせていただきました。行政主導のプロジェクトは、良くも悪くも1年で終わってしまいます。たまたま、そのプロジェクトは継続契約することはありまえんでしたが、個人的には今回の連載で書かせてもらったように、クリエイティブブロックを軸とした広域な地域づくりの実践を目的としたいたために、自分次第でプロジェクトを継続させることはできたのは事実。しかしながら、九州ではなく東北という広域な地域を二つも同時にやることは叶わぬ夢であり、結果的に東北を選択した。大きな理由の一つに九州には福岡の強烈なリーダーシップがあり、外国との交流も際限なく進んでいる国際都市である。他にも様々なコンテンツとアクターが揃っている希望あふれるエリアだと感じた。

 

 

出典:Wikipedia

 

その一方で、東北は政令指定都市のマップをみると一目瞭然である。北上するほどに密集度が薄くなる。東北には、仙台しか政令指定都市がない。実際に東北にはこの2年の間に湯沢を含めて100回以上、それも毎回1週間ほどの滞在をしながら創造区に適した地域を見出してきたが、とにかく移動は大変である。移動だけで日が暮れると言いたいほどで、それはまるで宮崎への交通アクセスを物語るようである。しかしながら、宮崎がそうであるように、人里離れたところだからダメだということは全くなく、連載でも証明しようとしたように、5つの視点で分析すれば活かせる地域資源は山ほどある。要するにどう見せるか?伝えるか?そして、どう企画するか?なのだろう。なによりも、人里離れていることはまだ知られていない価値や可能性の山である。東北には蝦夷の末裔や縄文文化が色濃く残っている(はず)である。はずという表現はむしろ解明されてつくしていないという意味で魅力的だ。若かれしころに、レビ・ストロスの理論を片手にアジアアフリカを彷徨ったあの時となんら変わらない動機でもあろう。ただ、未知な領域というのは個人的には最も価値があると思っている。

もう一つは気候変動である。暑くなるという予測は大幅に外れていく。今後は気候も氷河期を迎えるわけだ。その中で長年冬将軍に悩まされてきた東北には、様々な知恵がある。防災や震災という側面とともにアップデートする最大のチャンスだろう。世界市場へのアクセスでいっても、北朝鮮や北方領土などの問題は他人事ではなく、むしろうまく使っていく面白くなる。ピンチとまでいわなが、そういうテーマを扱うことで東北にはまだまだチャンスが巡ってくる。

 

 

文化的側面でいえば、東方見聞録で登場するジパング黄金の国の本拠地が岩手県奥州市に存在する。観光名所としてのポテンシャルを中尊寺を中心に、まだまだ発揮できていないのは東北全体でどう見立てるか?という視点が足りないからだろう。つまり、創造区画の整備方法をそのまま応用させれば、奥州、水沢、一関市は今後ますます発展する機会をつくれるはずだ。ちなみに、湯沢からの距離も冬は60分、夏は40分ほどである。もう一つ間を噛ませれば、仙台、松島、白川、秋保と繋がりながら西には湯沢、大曲方面へ、北には花巻、北上、紫波、盛岡、そして、東には遠野や釜石、石巻などにつづくルートが出来あがる。

交通アクセスは、創造区の定量的なKPIが人々の回遊(接続性)として掲げている以上、東北も宮崎も接点を増やす努力はしなければならない。創造区はあくまで点を作る作業にすぎない。つまり、向こう5年で点としての創造区画を整備しながら、政令指定都市からのアクセスのうち、東京から郡山、そして、仙台。もう一方は郡山から会津、喜多方、米沢、山形、天童、新庄を経由した湯沢、北からは秋田市から男鹿、能代、大館、弘前、青森、二戸へと、つながっていく創造区ベルトを樹立させることには貢献したい。そして、これから余暇を弄ぶ日本人が、アートや創作をする拠点、大企業では勤められなくなった個人や都市直下型大地震に見舞われた際の移住先として、食文化が旺盛な東北各地へのニーズは高まっていくだろう。

5年後には40歳を迎える。遠野から始まったNCLという活動は、新たな自治のモデルを構築し、アジアへすでに展開されていくそうだ。凄まじいスピードである。同時に、自治の仕組みやシステムを構築する社会実験ではなく、私はもっと”余暇”の過ごし方をデザインし続けたいと思う。そして、今現在ではない未来の余暇を予測しながら全く変わっていくライフスタイルの光景を、創造区画としてつくりつづけていくことは、すなわち、アーティストがキャンバスに絵を描くのと同じ行為といえよう。仕事以上の喜びを毎度覚えるのはまさに、これが余暇の最適な使い方だと自負しているからであろう。そして、現在同時に、オランダや中国、インドなどで展開されようとしている地域づくりの基礎となることを中期的な目的としている。




拓人本村


創造区画家。1984年4月28日東京生まれ。

生活者の想像力を掻き立て、関わりあう人の創造性が発揮される一区画"Creative One Block"を都市・地方へ宿すプロジェクトを多数展開。
専門は地域経営・都市開発。趣味は多拠点居住。特技は旅。

2009年株式会社グランマ創業。主にアジア8カ国にて地域開発・経営に従事。国内では東京と東北を往き来しながら、秋田県南に位置する湯沢に”Fermentation City”を企画。また、同地域で発酵ギークたちが集う年に4回のカルチャーフェスを企画運営する。(https://www.fermentators.com/)
都内では自由大学キュレーターとして複数の講義を担当。(https://freedom-univ.com/people/takuto-motomura/)また、世の中に新たな"思索"を提示するキュレーターとして世界を変えるデザイン展、Design For Freedom等、展覧会やムーブメントの企画を運営する。

基本的に個人の時代をいかに豊かに生きられるか?をテーマにRadicalな思想や発想をもつ先駆者たちを世界でおいかけ、複数メディアで執筆・寄稿する。(https://bizzine.jp/article/corner/109)