2019.3.30 世界を旅してきた中で 
ランドスケープのつくられ方(その4)

 

前回の投稿では、行政や政治の文脈からクリエイティブブロックの構成要素を説明させていただいたと思うのだが、これまで(全4回)投稿を拝読いただいた読者の方から、大変意義のあるフィードバックをいただいた。クリエイティブブロック(=創造区)としての理論を、筆者(本村拓人)自身の経験則に沿った形で紹介されてはどうか?という類のご要望である。まさにおっしゃる通りである。仮に一つ言い訳があるとすれば、自身の理論と実験をFUBAへの寄稿をはじめさせていただいた頃から、同時進行で進めていたということぐらいだろう。少々恥ずかしさは残るが、展開してみたいと思う。

眠れるランドスケープとしての魅力が未だ発掘しきれていない地域や土地には、価値向上をさせていくコストが俄然低くなる。クリエイティブブロックを語る上でもっとも最初に始める作業が、地域を見定める嗅覚ともいえよう。もちろん、感覚と直感のみではなく経済性などを司る評価軸は、根拠となる数字などを持つべきだという点もあるが、地価が安く、比較的物価なども安い地域の特徴は、①アクセスが悪い(人里離れている)一方で資源(食べ物、エネルギー、水)の自給自足率が高い”里山”か、②都市機能(教育+医療+福祉+物資調達への充実.etc)を持つ地域からの接続が15-30分以内(人の感覚によってだが、私にとって30分は許容範囲)③磨かれていない地域の特性(個性)が存在する。(人やその土地ならではなの風俗や習慣が影響)

 

 

“②”であげた都市機能にあえて挑戦的な事を付け加えるとすれば、新幹線や空路などのアクセスが国外からも確保されやすい政令指定都市との距離は重要だが、必要条件ではない。ちなみに、今回の事例となる秋田県南湯沢市での取り組みは、通常車では2時間半、鉄道を活用しても同等の時間がかかる距離感である。さらに4つ目を挙げるとすると、明確で手のつけようのない”課題”が可視化されていると、地域住人や景観作りに関わる人々との共通となる目標を手にすることができる。公の課題を国や行政ではなく、まずはボランタリーに生活者自身が先頭に立って解決する事。時には金銭的リスクも余儀無くされるが共助(クラウド)の力で解決する事が大切なことは、前回説明させていただいた(ランドスケープのつくられ方 その3)ので改めて参照してもらいたい。

 

 

”発酵都市”を切り口とした景観づくり

 

これらの条件を必要条件と見立てて、いよいよクリエイティブブロックを仕掛ける地域選定がはじまる。私の場合、2017年3月12日にひょんなきっかけから、秋田県湯沢市へ訪問することになる。湯沢市は秋田県最南に位置しており、かつては、日本の三大銀山の一つを担う院内銀山のお膝元として多くの人が行き交い、ゴールドラッシュに湧いた地域の胃袋を掴む酒・味噌・醤油などの発酵産業が隆盛する。食文化を辿れば名店佐藤養助が展開する”稲庭うどん”の発祥である稲川地域では、他にも800年以上の歴史を持つ川連漆器が食文化に花を咲かせてきた。稲川をさらに進むと、秘湯が集まる小安峡へとつながる。業界人も御用達の”阿部旅館”は、機会があればぜひ一度使ってもらいたい。

人口は47,000人ほど。平成の合併で4つの市町村が合併したこともあり、それぞれの地域に根付いた衣食住の文化は個性的である。農業従事者も多く、安価に地の物が手に入る為春夏秋冬どの季節に訪問しても、楽しみ方は様々だが、ランドスケープという観点を含めて私的に述べるのであれば、”冬”の湯沢が最も神秘的で癒される。読者のみなさまにもぜひおすすめしたい。

奥羽山脈が丁度岩手と秋田の県境を縦断している為、この地域の雪深さは日本一とも言えるだろう。つまり、これが公共課題としてこの地で暮らす人々を苦しめてしまっている事は、安易に想像ができた。なぜなら、3月上旬の雪解けが始まる時期にも関わらず、3メートルはゆうに越すsnow wall(雪壁)に圧倒されたからだ。また、湯沢駅前から伸びる地域商店街は、ご多聞に漏れず、そのほかの地域でも見られるシャッターが下ろされている。シャッターミューラル(アート)などを展開するのもアリかも知れないと、淡い期待はご愛嬌として、どの地域でもこのシャッター街を通るたびに、日本の遊休不動産の問題をどうにかしたいと、景観を考えれば考えるほど尚一層その気持ちは強くなる(何かの機会で、シャッター街についての解決策を自分な理に書いてみたいと思う)。上記からも、創造特区を展開する前提条件どれも合致しているという点で、私にはこの地域が好立地な地域であると見立てた。

 

 

ヤマモ味噌醤油7代目高橋泰氏との出会い

 

個性がない地域は人々の記憶から消えていく。少々厳しい言い回しだが、これは私の持論である。地域を言い換えれば、生活者個人の集合体である。したがって、その構成要素となる一人一人は、無意識のうちに地域に色を宿していると言う事である。恋愛を成立させる時も、初対面で出会った異性にまずは名前を覚えてもらって、好印象な人として覚えてもらいたいのは真理的欲求である。これとなんら変わりはない。

 

 

私が初めて湯沢市を訪れたと述べたが、その目的は、150年以上続く味噌醤油蔵を継承しながら、発酵調味料の代表格である味噌醤油の伝統や食文化を継承しつつも、21世紀の暮らし方に合わせた発酵産業の礎としてアップデートさせようとしている高橋泰さんとの議論することであった。高橋さんは、地域に普遍的に流れる”文化”を経営資源としる象徴的な文化起業家である。次々に展開される企画や商いには、どれも彼の美意識が如実に反映されている。その一方で、その地域への哀愁を超えた伝統への偏愛が、圧倒的な個性を醸させている。言葉で表現仕切れない部分もあるが、彼の世界観は、同社の公式ウェブサイトを拝見されるとその片鱗には触れられることができるだろ。

 

ヤマモ味噌醤油醸造元HP http://yamamo1867.com/

 

高橋さんは、400世帯ほどの岩崎という小さな町の一区画で、会社を継ぐ決意をした12年前からコツコツと継続投資をしてきた。出会いから2年間の月日が流れているが、私自身も100回以上は岩崎に訪問している。その期間中も味噌醤油蔵が変わる様は激しさを増す一方で、つい最近(2018年11月)には、蔵の中に岩崎地域の変遷が見て取れる展覧会場と画廊(ギャラリー)とカフェをオープンさせたばかりだ。取り扱う料理は、ベトナムで愛されているフォーである。意外と言われるが、むしろ地域住民にとっては、都心部でも出会えないアヴァンギャルドな異世界な空間でベトナムのソウルフードを食せる事は、生活満足度が高まり、地元から常連で来られる人が増えているのも成功している兆候だろう。

 

筆者(左)高橋常務(中央)新政佐藤祐介代表(右)クリエイティブ・セッションの様

また、約5年前から勧められている蔵内で展開されるファクトリーツアーは、ギャラリー・カフェなどで訪れた人々をさらに釘付けにする。昨今の健康ブームを超え、ますます発展を遂げるテクノロジーやAIといった理知的かつ合理的にコントロールできる(=答えのある)世界の到来が、想像されればされるほどにその反動で発酵という神秘的で掌握しきれない活動体(=答えのない)世界への価値は、全世界的に向上していく。昨年は、実験的にドイツのベルリンにて高橋さんと共にNION Weekというフェスティバル会期中に、ドイツ人向けにワークショップを開かせてもらい、その反響の高さに我々も驚いたほどである。全文英語ではあるが当日の記事のリンクを共有させていただく。
https://www.nion.berlin/miso-workshop-all-the-good-stuff/
近い将来は国内のみならず、海外からもより多くの発酵ギークたちが列をなしてヤマモ醸造に列をなしてくることになるだろう。




拓人本村


創造区画家。1984年4月28日東京生まれ。

生活者の想像力を掻き立て、関わりあう人の創造性が発揮される一区画"Creative One Block"を都市・地方へ宿すプロジェクトを多数展開。
専門は地域経営・都市開発。趣味は多拠点居住。特技は旅。

2009年株式会社グランマ創業。主にアジア8カ国にて地域開発・経営に従事。国内では東京と東北を往き来しながら、秋田県南に位置する湯沢に”Fermentation City”を企画。また、同地域で発酵ギークたちが集う年に4回のカルチャーフェスを企画運営する。(https://www.fermentators.com/)
都内では自由大学キュレーターとして複数の講義を担当。(https://freedom-univ.com/people/takuto-motomura/)また、世の中に新たな"思索"を提示するキュレーターとして世界を変えるデザイン展、Design For Freedom等、展覧会やムーブメントの企画を運営する。

基本的に個人の時代をいかに豊かに生きられるか?をテーマにRadicalな思想や発想をもつ先駆者たちを世界でおいかけ、複数メディアで執筆・寄稿する。(https://bizzine.jp/article/corner/109)