2015.4.29 Unknown Landscape 
頭上にある風景のパラレルワールド

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福岡には都市高速道路があります。「トシコーソク」という言葉の響きは、便利とか、ちょっと贅沢とか、あるいは九州自動車道に接続して遥か遠い目的地へと続くクルマの旅の玄関、といったイメージを抱かせるのではないでしょうか。そのいっぽう、「トシコーソク」は都市の道路や住宅や水辺に覆い被さる、巨大な圧迫感をまき散らす怪獣のような存在感を見せつけています。でも今回は「トシコーソク」の役割や外観ではなくて「トシコーソク」から眺めた風景の話しをしましょう。

 

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福岡の「トシコーソク」は環状につながっているので、時間がある限り600円ぽっきりで何周でもグルグル周回できちゃう。初めて福岡に来た人を案内するのにも、案外喜ばれる体験メニューかも知れない。  昔、名神高速道路や東名高速道路の設計に関わった有名な景観研究者の大先輩が、日本で高速道路を作って移動できるようになったことで、自然の変化に富む日本の国土はまるで回遊式庭園のように人の手の内に収まって体験できる、というようなことを語っていました。同じように、僕らが「トシコーソク」を走ることによって、福岡の街の風景は広い庭を早足で歩きながら眺めるように、僕らの手の内に流れ込んできます。

 

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さて、「トシコーソク」を走る車のウインドウ越しに見えるのは、地面から離れて空へ伸びようとする都市の風景です。空へ浮かぼうとする福岡の街の夢が、時速ウンキロメートルの流れに乗って、後方へどんどん過ぎ去ってゆきます。これはつまり、福岡の都市景観がかつて無かったような「上へ伸びるチカラ」と「流れるチカラ」を同時に獲得した成果だと言えるかもしれない。 地面に立ちどまって高いビルやタワーを仰ぎ見るのとは訳が違う。「トシコーソク」は地面と僕らの現実を消し去り、もはや福岡のどこをどっちに向かって走っているのかさえ忘れさせてくれる。生活から離れていた遠くの山は路肩の壁越しに並び、忘れかけていた海が遥か遠くまで続いています。川辺を埋めるビル街やドームやタワーや精いっぱいの広告物が、 広大な山と、遥かな海と、満天の宙に挟まれて、闘っているような。そんな時に助手席と笑い合ったり、うっかりラジオのお喋りに聞き入ったりしていると、この風景は風景であることを辞めてしまい、僕らに届くことはありません。自分自身と向き合うことの出来る孤独なドライバーだけが、この力強く密やかな風景世界の住民になれるのです。

 

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そんなしばしの空中遊泳のような「トシコーソク」の力強い風景は、ランプに分岐して坂道を転がるように下り始めた途端にはかなく一瞬で消えうせて、地面に広がる生きてゆくべき現実を僕らに向き合わせます。ほっとするような、がっかりするような、気持ちの狭間。クルマと一緒に僕らのテンションもスピードダウン。福岡の都市の風景が、重なることの無い2つのパラレルワールドで「同時に生きている」と感じられる瞬間。

 

人は都市の風景に安らぎや賑わいや交流を求めるもの。商店街や住宅地や公園がそんな場所に相応しい。でも福岡の街の頭上では、もう一つの風景があなたを待ってます。孤独なチカラに満ちた世界への入口は、すぐそこにある「トシコーソク」のランプですよ。1周、いかがですか?




仲間浩一


1963年生。福岡県北九州市出身。風景通訳家。マウンテンバイカー。「トレイルバックス」代表。
主に中山間地や離島の地域で、景観の調査や評価、ツーリズム支援、ガイド養成などの仕事を行っている。