2016.7.18 景観の作法 
建築と自然との関係

街中から見える山々は遠くに見える。ビルの谷間から覗くその影は街と自然との共存をイメージさせます。日本人は昔より「借景」という言葉を大事にしながら建築を造ってきました。窓から見える山々や木々、そして隣の屋根までも。
『景色を借りる』
実に自然に対する配慮のある考え方です。

一時代、私たちはその自然との共存を疎かにした時代がありました。開発という何とも人間の主観的な行為です。
建築という人工物を自然の中に置き換え、それが近代化の象徴として、喜ばしい出来事のように感じていました。

しかし昨今になって、ニュースでよく取り沙汰される環境問題に
・ヒートアイランド現象(コンクリートのふく射熱や空調機の廃熱による温度上昇)
・局地豪雨
・崖崩れ
など挙げられますが、これらも山間部の都市化が起因しています。

 

sashie

 

昔は、山と街の間に「里山」と呼ばれる緩衝地帯がありました。その中間地帯を住宅地として開発を進めた結果、上記のような環境問題が発生するようになり、併せて最近ではクマやサルが住宅地まで出現し、人を襲う事件も起きています。

しかし、現在は土地さえあれば、やみくもに建物を建てているという訳ではありません。日本の土地は、すべて「用途地域」という分類がなされています。どの場所に何を、どのくらいの規模まで建てていいか、行政で決められているのです。
また、「用途地域」は建物を建てることだけを考えているのではありません。周辺環境を考慮して建設が禁止されている地域、一定の騒音が出る可能性のある建物の制限、より良い自然環境づくりを目指している地域、敷地内に緑地部分を設けることを義務付けられている地域もあります。昔に比べて道の街路樹も増えたように感じます。
自然以外でも昔ながらの街並みを考慮して、外壁の色や素材を制限や、意匠的に周囲と調和のとれたデザインを推奨した地域もあり、街が景観維持に取り組んでいます。
「開発」と聞くと、むやみに山が切り開かれていくイメージを持つ方が多いと思いますが、実際は不必要な自然破壊がなされない様、取り決められた範囲内で行われているのです。

これからの時代はまた新たな問題が起こります。人口減少により住宅の需要が減り、さらには学校や公共施設というもっと大規模な土地と建物が利用されずに放置される可能性もあります。
そこで出てくるのが、「再開発計画」です。広い土地を利用しておしゃれな商業施設など、新しい何かを建てるという発想に行きがちですが、一つの考えとして提案したいのは「建てない」という案です。
いわゆる前述しました「里山」の機能を町中に小規模ながら配置することも今からは重要でしょう。

一旦市街化してしまった土地を山に戻すことは不可能です。これからできる街中の空き地を緑化に戻すということを考えてもいいのではないでしょうか。一言で「戻す」といってもただ木を植えればいいという訳ではありません。
その緑地に意味を持たせる、例えば公園や学校の校庭(いくつかの学校で一つの校庭を利用する)、洪水対策の貯水槽など。
そして街はそこを基盤にして広がりを見せていく。そんな再開発計画もいいものです。

人々が仕事や買い物の合間に、ふとリラックスできる「空間」が増えて、長い年月をかけて山から町を見た風景が、文字通り自然と建物が「共存」している様子が未来の景観であることを願います。




寿久佐々木


一級建築士・管理建築士
1988.05 ヤマトマネキン環境開発本部
1998.10 設計事務所
2000.11 佐々木設計室 設立
2008.11 アートレ建築空間 一級建築士事務所 設立