2016.3.28 くらしのにおい 
乳付旗(ちつきばた)

先月実施された景観バスツアーの車内で、福岡市内を移動中とても面白い話題で盛り上がった。

美術館でボランティア活動をされている、ご婦人の台詞で「まちにたくさん立っているノボリって日本独特ですよね〜」

車窓をみるとパチンコ屋の敷地に「新台入替」の旗が立ち並ぶ、「ギャンブルやらないから、新台入替の意味がわからないのよぉ〜」

なんだか、いいにおいが漂いはじめた、ご婦人の高級な香水ではなく、面白そうな景観ばなしのにおいだ。

このノボリ、日本の古い呼び名では「乳付旗(ちつきばた)」と呼ばれている。

竿を通す為の輪の部分が動物の乳に見えるからなのだが、ネームセンス抜群である。

 

そう言えば、外国では3角形のペナントとかバナーなどが建物の壁面から持出しているイメージである。

それも、美術展や町のイベントなどに合わせて統一されていたり、国旗や地域旗が掲揚されていたりと上品なのだ。

それに比較すると外国人にとって日本のノボリは下品で意味がわからないものが多いのではないだろうか?

 

「Tポイント貯まります!」→ TUTAYAが流通させている、全国共通ポイントカードが利用できないけど加算はされるよ!

「紳士8点、レディス5点」 → 10点満点の点数ではなく、新社会人の為のスーツ販売セット数

「1パチ5スロ20スロ」→ 一般的なパチンコ屋さんより低ルートの為長く遊べるよ!短期決戦の方向けの一般的なのもあるよ!

「本日特売日」→ 今日もお店は開いてるよ! 特売と言いつつ、いつも通りの値段で売ってるよぉ!

「産地直送」→ 農協や市場を通さず、売りにきたよぉ!(フードマイレージ短いよぉ〜)

裏読みすると、とても面白いのだ!(笑)そして自由すぎる。

分類すると下のような感じになる。

 

「所属あらわし旗」 → ○○町商店街、○○神社、日本○○協会、福岡市駐輪場、その他

・統一化された所属をあらわすデザイン、神社のぼりなど古くから伝わるものもある。

 

「商品名叫ぶ旗」 → (こだわりの)らーめん、(安納いも)やきいも、から揚げ(揚げたて)、お弁当、ハンバーグ定食

・一押しメニューを、はためかせている

 

「かけ声旗」  → いらっしゃいませ!、忘年会新年会の予約承ります!、大売出し、新台入替、産地直売、今売れてます!

・具体的ではない、ぼんやりとしたかけ声

 

「標語旗」   → 交通安全、飲酒運転撲滅、痴漢に注意!、リサイクル推進月間、オレオレ詐欺に注意

・かけ声旗に社会性が付与されたイメージ

 

「最後は金目旗」 → SALE、20%OFF、今日だけ3割引、半額セール、店内全品30%オフ

・ 結果的には金銭のお得感だけで、お客さんにアピール

 

「よくわからない旗」 → 1パチ5スロ、大感謝祭、ポイント5倍デー、O脚矯正、縁結び

・よくわからない旗はかけ声系なのだと思われる!極端に省略した、専門用語やマニアックさが理解不能にしている。

 

風にはためく現在のノボリの機能は、所属や開催イベントをあらわす旗以外は、基本「かけ声」なのである。

昔の商店街で聞こえた「やすいよ〜やすいよ〜」「今日はメバルが良いねぇ〜」「やきいもいかがっすかぁ〜」

「まけとくから買っていきなよ!」のような、商売上のかけ声をシャイな日本人は口に出せずに、ノボリにして

そっと立てるのではないだろうか?

そのかけ声をあらわすサインは、いつでも取り替えや撤去が可能な仮設性を含んでいる。

 

商店街

唐人町商店街。商店街をあらわすノボリの他に自転車マナーアップ、飲酒運転撲滅、からあげ、コーヒー豆専門店 旬おかず、安納芋に隠れて奄美ふるさと100人応援団?など、アーケードにノボリが立ち並ぶ

 

 

そもそも、ノボリというものは戦国時代に軍の所属をあらわしたり、軍容を誇示したりする為に用いられた。家紋を染め抜いたその流れ旗は、高さ一丈2尺(3.6m)幅は二幅程度(0.72〜0.76m)が一般的だったので約5:1のプロポーションだった。(最近のノボリは4:1〜3:1のプロポーション)移動時に小さく折り畳むことが出来る機能は、合戦時に持ち運びが簡単で、どんな場所でも自分の陣地にできるのだ。ポイントカードのロゴデザインが印刷されたノボリなどは、店舗から駐車場、コンビニなど系列を増やし全国制覇を競っているかのようで、戦国時代さながらの陣取り合戦的な面白さを感じる時がある。

 

戦国幟

福岡市博物館での展示

 

また、その仮設性の上でお祭り(ハレの日)の演出としては、ノボリの設置はとても大事な要素である。熊本県のある地方では、男の子が生まれたら端午の節句に鯉のぼりや武者絵のぼりと一緒に名前が描かれた大名のぼりが立つ、その子の生誕と立派に育つ事を祈願した素敵なノボリである。

 

武者のぼり

参考画像(株式会社 十二段屋 ホームページ)

 

 

安価で設置が簡単なだけに、あまりよく考えずに設置されるノボリだが、もう少しきちんと考えて設置した方が

良いのにと思うものが沢山あるのも事実。特に気になるのはノボリの支持体で、パイプにコンクリート製の基礎がついたもの

水を入れるタンク型の脚、ガードレールに取付けられたパイプに差し込むだけなど様々である。

ノボリが立ってない時は、ただの障害物となるので、恒常的に立てる場合は事前にきちんとした計画が必要だ。

 

ミスド

ノボリを立てる為に苦心しているのがわかる、また表裏のデザインが出来ると良いのになぁ〜

 

ノボリの脚を納める穴が地面にあいております

ノボリの脚を納める穴が地面にあいております

 

また、ノボリは屋外広告でありながら、仮設物なので届け出は不要である。この気安さがノボリの良い所でもあるが、

チェックが無い為に景観を壊す一因にもなっている、特に景観形成地区などでは色彩計画など十分な配慮が必要である。

困るのは、いつもノボリを変えない店だ、いつでも「本日大特価」「大売出し」だとイソップ童話の「狼少年」

みたいに本当に必要な時に信頼ある広告を出せるのか心配になる。(まぁ、賑やかさがほしいのだろうけど)

 

ビルの壁面に展開する懸垂幕も、その仮設性でいうとノボリの応用である。

壁面を利用する為に風の影響を受けないので、複数の枚数を使って、壁面サイン全体をつくりだす事も可能なのは面白い!

 

懸垂幕

博多バスターミナルの壁面、横の博多駅の五郎丸三分割はなかなか良いねぇ!

 

ノボリがつくる福岡市の都市景観といえば、大相撲十一月九州場所の福岡国際センター前の力士のぼりの風景である、

冬の青空に、力士名の入った原色のノボリが並ぶと、あんこ型体系の僕としては気が引き締まる気がする、

この景観は福岡市の冬のワクワクする景色のひとつで、やはり非日常感の興行演出の役割を担っているのだと感じる。

 

九州場所のぼり

大相撲九州場所、国際センターでの景観

 

いつもと違う非日常の風景をノボリは作り出せるという意味ではノボリの可能性は大きい

今回の発見でノボリは非日常感のある「かけ声」ということで、新しい視点のノボリを提案したい!

「社長さん、キャバクラどうですか?安くしておきます!」「良いおっぱいあります!」(乳付旗だけに)

強引で迷惑なぽん引きの代わりに、シャイな乳付旗を中洲で掲げてみたい!

 




ogata


建築家、NPO法人九州コミュニティ研究所 副理事長、日本キチ学会代表、九州産業大学非常勤講師。
著書:「秘密基地のつくり方」(2012)