2016.1.4 景色を輝かせるもの 2
坂口安吾と屋根のR

坂口安吾は「日本文化私観」の中で、ドライアイスの工場と小菅刑務所と軍艦の三つに心を惹かれ、その理由を次のようにいっている。

 

この三つのものが、なぜ、かくも美しいか。ここには、美しくするために加工した美しさが、一切ない。美というものの立場から附加えた一本の柱も鋼鉄もなく、美しくないという理由によって取去った一本の柱も鋼鉄もない。

ただ必要なもののみ が、必要な場所に置かれた。

そうして、不要なる物はすべて除かれ、必要のみが要求する独自の形が出来上っているのである。

それは、それ自身に似る外には、他の何物にも似ていない形である。

必要によって柱は遠慮なく歪ゆがめられ、鋼鉄はデコボコに張りめぐらされ、レールは突然頭上から飛出してくる。

すべては、ただ、必要ということだ。そのほかのどのような旧来の観念も、この必要のやむべからざる生成をはばむ力とは成り得なかった。そうして、ここに、何物にも似ない三つのものが出来上ったのである。

(「日本文化私観」)

 

必要なもののみが、必要な場所にある。そこに美しさを感じると安吾は言うが、ただそれだけではなんだか味気ない。

地下鉄橋下駅の近くにある橋下車両基地。その建物の屋根は大きなRの曲線が掛かっている。このRには訳があるが、遠くの油山を背に建物を見てもその理由は分からない。

 

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飯盛山を背に建物を見るとその理由が分かる。近くの山々を美しく見せるため、周りの風景に溶け込むように、屋根には大きなRの曲線が掛かっている。

 

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必要があり車両基地はそこにある。まわりの風景に配慮し、それらをさらに美しく見せる為に掛けられた屋根のR。そのRは「そこに存在させていただいている」という謙虚な印象をまわりに与える。

必要の先にあるやさしさは、美しい。




末松淳一


1971年に生まれてから、ずっと博多在住。
電機メーカー勤務で、趣味は読書。
愛読書は「かもめのジョナサン」
大切なのは、固有名詞。