2015.12.8 よしなし-ごと 1
国境の長いトンネルを抜けると

 

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

 

文学に暗い私も知ってるくらいなので、おそらくかなり有名な一文です。川端康成「雪国」の冒頭。主人公・島村が目にする景色。僕の勝手な想像では、透き通る白さが一面に「シワーッ」と広がっている感じです。しかもその景色は、静止画ではなく、暗闇からいきなり真っ白な一面が(なぜか、左のほうから)広がってくるような。なんとも“うごき”を伴うものだったりします。

ちなみに、「~トンネルを抜けるとそこは、雪国~」と記憶してる方、いませんか? 実はこれって、のちの映像作品のナレーションによるものみたいです。記憶ちがいは、どうもそのへんが原因の可能性が高いようですね。実は私も「そこは…!」とつけていました。類推すると、動く景色の印象もテレビか何かの受け売りかもしれません…。こわいものです。

 

雪国の写真、撮れませんでした…。

雪国の写真、撮れませんでした…。

 

ということで、私が言いたいのは、景観に  “うごき” って、なかなか重要だということです。

現代社会に生きるみなさんは、けっこう忙しく動き回っているわけで、
日がな一日のんびりと海を眺める生活もできませんので。
何かの景色を見たときには、必ずと言っていいほど、どこかに “うごき” が寄り添っていたりします。

 

話は少し横道に逸れますが、最近のテレビでは「散策もの」が流行ってますね。
例をあげると、少し前では、ブームの火付け役となった故・地井武男さんの「ちい散歩」、知られざる街の歴史や人々の暮らしに迫るタモリさんの「ブラタモリ」、相棒・チャリオ(自転車)に乗って日本全国を走りまわる火野正平さんの「にっぽん縦断こころ旅」、路線バスを乗り継ぎ目的地を目指す太川陽介さんと蛭子能収さんの「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」…。
キリがないのでこのへんにしますが、
どの番組も高視聴率なところをみると、「人とのふれあい」やそれと並行しながら通り過ぎる「まちの景色」には、
日本人の琴線に触れる何かがあったりするのでしょう。

そんなことも絡めて考えると、 “うごき” の中でも特に、 “スピード” って、
景観のあれこれを左右する何か大きな一翼を担っているように思えてなりません!

現に、前述のテレビ番組でも、「歩く」から「自転車」、そして「バス」へと、
移動スピードの差異が番組構成を支える重要な個性となっているではありませんか!!!

 

とかなんとか妄想をしながら、シーンは一転・福岡へ。ガラにもなく、夜の大濠公園を走ったりしてみます。

キラキラと水面に映るビル群は、少しづつスクロールし、なんだかとてもキレイです。
走るという行為の爽快感も相まって、しかも自身の足力によって、新しい景色を生み出していくわけなので、
美観にカラダが反応するシンクロ率もかなりです。

 

それでは、大濠公園をぐるりと一周してみましょう。
マリリンも訪れたというボートハウス前の喧騒とゆっくりと羽根を休める白鳥を横目に通り過ぎると、
大濠の水面越しに、福岡ビル群も揺れています。

 

naka01naka02

 

静かに眠る水辺の公園、トン!トン!トン!と振動を吸収するゴムチップ舗装に刻まれるランナーの足音。

アメリカ領事館もある閑静な住宅街と生い茂る樹木が重なる漆黒に、
少しの恐怖心(カラスも覗いてたり)を掻き立てられながら、エイっと走り抜けると…、

 

naka03naka04

 

やがて、明るみが訪れ、左手には松島も望める大濠の全景。そして右手には、威厳ある日本庭園の長塀と赤煉瓦の美術館。

開放感に身をまかせ、足を進めると…
大濠の新たな顔となった、スターバックスコーヒーがオーディエンスを従えて出迎えてくれます。

 

naka05naka06

 

真っ暗なクジラ公園で、サッカーボールを蹴ってはしゃぐ若者たち。
そんな姿を怪訝そうに睨みつける初老のランナーを眺めながら、左手に目を向けると、

スタート地点であるボートハウスの光が、1周2キロのパノラマのゴールに艶やかな花を添えてくれます。

 

naka07

 

どうです!? この目まぐるしく移り変わるスピード感。
私のつたない文章力と写真力ですら、うっとりしてしまったことでしょう…。

コースを周回するみなさんも、スタバのオープンテラスでお茶するみなさんも、
きっとこの景色や雰囲気に共感し、この地に足を運んでいるはずです。
スポーツウェアを身にまとい、走りながら体験すると、
その感動も倍増します。たぶんですけど。

なにも、論理的なことを熱弁したいわけではないのですが、
“うごく” ということをきっかけに、輝きだす景観ってあるんだと思います。

 

ええ〜っ!?  まだなんか、物足りない感じですか?
それじゃもうひとつ、いってみましょうか。

 

ということで、スピードをさらに上げて、今度は車に乗ってみます。
都市高速を太宰府インターから博多駅方面に向かうと、
空港を右手にして、なだらかな坂道を登っていくシーンがあります。

滑走路との関係からか、あたりを照らすのではなく道路のみを認識させるよう黄色い明かりが点在するこの地点。
その後、すぐに下りになるため、坂道の先が見えないこともあって、急な坂はまるで滑走路のようです。
大げさですが、なんだか宇宙に飛び立つような感覚がして素敵です。

爽快感にまかせて、アクセルもフルスロットル!と行きたいところですが、
速度制限には十分ご注意ください…。

 

nakfuba高速

右手が福岡空港です。写真に収めるのって難しいですね…

 

ということで、「スピードと景色」には、切っては切れない相性があるんじゃない!という思い。
ご理解いただけたでしょうか。

都市高速では、もうひとつ。荒戸大橋から長浜の鮮魚市場を見下ろす場所も好きなシーンなのですが、
ここはなんとも残念ながら、スピードが少し早すぎます。

感じたいけど感じきれない残尿感、スピードと景色の相性がイマイチ。といった感じでしょうか…。

かといって、スピードが早すぎることは、必ずしもダメ確定なわけではありません。
スピードをさらに加速して、今度はthe Superexpress新幹線と景観の関係について考えてみたいと思いますが、

ざーんねん。どうやらお時間が来てしまったようです。
そのお話しは、次回の講釈で




中村 善輝


1973年生。福岡県福津市(旧津屋崎町) 出身。工務店の長男として生まれ、建築家への道を嘱望されるも、数学への苦手意識を克服できず挫折。憧れの女子の一言から大きく方向を転換し、人文学部フランス語学科に入学。その後、外国語も苦手だったことが判明し、迷子になる。